この記事は、最近私がとある高校の修学旅行に添乗させていただいた時に起こった実話です。
旅行業界を目指す人、これから活躍していく旅行業界の若手社員には勉強になる内容になっています。
ある年の1月、札幌に数年に一度の大雪が降りました。
雪が降り続いたのはわずか数日でしたが、気温が高めで湿った雪であったことも雪に慣れているはずの札幌市民にも混乱を招く雪でした。
水分を多く含み重い雪は除雪作業を阻み、朝に凍りついた路面は札幌市民の足に強烈なダメージを与えました。
電車は止まり、高速道路は通行止め、2車線の一般道も片側を除雪され、排雪が追いつかない雪が塞いで1車線道路と化してしまったため、札幌市の中心部は終日大渋滞となりました。
JRが止まった影響でホテルのスタッフが出勤できずに通常より少ない人数での対応、そして最終日には何と予約していた貸切バスが渋滞にハマって来れないという事態になりました。
路線バス、高速バスも渋滞に巻き込まれるため定期運行とはほど遠く、タクシーも呼んでもなかなか来ないという大混乱の中での旅行です。
この記事は、波乱と怒涛の2泊3日、とある高校の札幌修学旅行での添乗員の先生の奮闘記です。
大雪で飛行機欠航からの幕開け
飛行機が欠航で羽田に足止め
出発当日の朝、予定通り6:30に羽田空港にスタンバイ、唯一大きな気がかりであったのが前日から旅行先の北海道に降り続く大雪でした。空港に向かう電車の中、航空会社のHPで飛行機の運行状況を確認すると、早朝の便はやはり欠航、当日便は全て天候調査中の文字が出ており嫌な予感は強まるばかりです。
そして、予定通りの時間に生徒が集合完了、その時点ではまだ天候調査中で何もわからない状況でした。新千歳空港で自由に昼食タイムにする予定だったものの、いつ飛行機が飛ぶかわからない状況のため、機内での昼食に変更、羽田空港で昼食を買っておくように先生から指示を出していただき、生徒は一旦フリータイムとしました。
程なくすると欠航の知らせが届きました。登場予定の便だけでなく、その日に新千歳へ飛ぶ飛行機のほとんどの欠航が決まったとのことです。
添乗員3年目になったばかり、2年のうちの1年半は新型コロナウイルスの影響でほとんど添乗業務ができておらず、このような大きなトラブルに初めて遭遇した私はオロオロするばかりで何もできません…
かろうじて、羽田空港の展望デッキや売店の場所を生徒に案内するくらい…
生徒や先生方の不安を少しでも軽減できるような気の利いた一言も言えぬまま時間だけが過ぎていきます。
「もしかしたら今日は飛べずに帰宅の流れになるかもしれない…」
そんなことを考えながら他の添乗員が他の便に振り替えられるのかと航空会社のスタッフと話していると、なんと定期運行のダイヤからは外れた臨時便を用意できるかもしれないとの情報が出ました。
航空会社としても300人近い大型団体は逃したくない大事なお客様だったのでしょう。何としても飛行機を飛ばしたいという熱意を感じました。
ただ、除雪できれば飛べるが時間はわからない、飛べるかもわからない状況で待つのみでした。
生徒たちは、時間の潰し方に苦労している様子で、先生方も対応に頭を悩ませます。これが羽田空港だったのがせめてもの救いだったでしょう。展望デッキだけでなく、カフェやお土産店、ベンチに自動販売機と充実しており、生徒たちの退屈しのぎになるものはたくさんありました。
奮闘の果てに…臨時便
生徒たちが最初に空港に集合してから3時間後、ようやく臨時便の運行が決まりました。その時点で出発は40分後、生徒たちはちょうど再集合完了しています。
しかし、航空会社から搭乗券が発行されず、身動きが取れないのです。ようやく発行されたと思ったら順番がバラバラでクラスごとに仕分けるのに先輩添乗員2名が大奮闘する状況に…
その間、チーフ添乗員は先生方に状況説明をしつつ、航空会社と搭乗の段取りの確認、私は生徒対応と全員がフルに動き回って何とか搭乗券配布、保安検査場へと向かうことになりました。
しかし、その時点で出発20分前を過ぎており、定刻通りの出発は絶望的な状況でした。荷物を預けなければならない生徒も6名おり、私はそちらの対応へ…と思っていたら既に荷物預けは締め切られており、搭乗口で荷物を預けることになりました。航空会社のスタッフと協力してスーツケース6個を持って保安検査場を通過、搭乗口へはみんなで走って向かいました。
そして、定刻から20分近く遅れて出発となりました。結果的には元々の搭乗予定の便から1時間30分遅れで羽田空港を出発することができたのです。
冷静で素早い判断、行動をしていた先輩添乗員への尊敬と、落ち着いてわかりやすく状況説明を行なってくださった先生方に感謝です。

到着時の新千歳空港
吹雪でも行きたい場所といかにも修学旅行らしいその理由
「飛行機の到着が遅れても、ウポポイ(民族共生象徴空間)にはできれば行きたい」
これは羽田空港で足止めされている間、校長先生が何度もおっしゃっていたことです。
当初は10月を予定していた修学旅行が新型コロナウイルスの影響で1月に延期し、他の方面も一時は検討したものの、アイヌ文化についての事前学習を積み重ねてきたため、ウポポイに行くために札幌への旅行を決定した背景がありました。
しかし、羽田出発時点でウポポイのある白老町方面への高速道路が通行止めになっている状況で、下道では最低1時間半、この状況なので2時間以上はかかるであろうという見込みだったのです。添乗員としては、その背景を聞いてしまうと行かせてあげたい気持ちは持ちつつも、行ってしまうと何時にホテルに入れるか全くわからなくなってしまうため、新千歳空港で少し自由時間を取ってからどこにも寄らずにホテルに向かうのがいいのではないかという考えでまとまっていました。
そんな中、新千歳空港に着くと、待っていたバスガイドさんから、高速道路の除雪が終わり、通行止めが解除されたとの知らせがありました。元々、新千歳空港で昼食の時間を予定していたものの、機内で済ませたことにより、カットできたため、元々の出発予定からほとんど遅れることなく新千歳空港を出発し、ウポポイに向かうことができました。
様々な想いと偶然が重なって起きた奇跡に、初日から感動でした。
札幌といえど雪で交通は大混乱
車線規制に通行止めで道路は大混乱
いくら北海道といえど、この時ばかりは雪の量にも質にも地元のバスガイドでさえびっくりでした。
湿った重たい雪が数日に渡って降り続き、雪道に慣れているはずの北海道の車でさえ朝には路面凍結のためにスリップする車もあるほどでした。
「北海道の雪は本当はもっとサラサラしている。こんなベチャベチャな雪は初めて。嫌だ。」とバスガイドがこぼすほどに地元の方にとっても辛い雪だったようです。
私はこの時に初めて知ったのですが、道路に積もった雪を取り除くには、除雪と排雪の二段階があるのだそうです。雪を道路の端に除けるのが除雪、除けられた雪を雪捨て場まで持っていくのが排雪です。この時ばかりは、除雪まではできていても排雪が追いつかず、一般道には除雪されたものが山を作り、二車線道路のうちの一車線を塞いでいるために、札幌市内では終日大渋滞が起こっていました。
高速道路も、除雪のために通行止めと開通を繰り返します。一般道の渋滞や高速道路の通行止めに伴って高速道路でも渋滞が発生するのは自然の流れでした。
初日、ウポポイから札幌市内へのホテルへの帰り道、5キロ進むのに2時間近くかかった区間があったほどです。
2日目、3日目も渋滞に案の定ハマったため、予定通りに行程を進めることができませんでしたが、何とか最終日に飛行機に乗り遅れることだけはなく、帰ってくることができました。

円山動物園もこのような積雪
バスが来ない!
3日目の朝、この日が最終日でした。この時は駅近のホテルということで、バスよりも先にバスガイドさんが電車を使ってホテルに着いていました。そこでもたらされた情報が、「雪のためにドライバーが出勤できず、バスが1台来れない」という大事件です。
全国、いや世界中どこを探しても、手配に手違いがあった場合を除いて、代理のドライバーや車両が代車というケースはありますがバス会社の都合でバスが来ないというのはあり得ません。そのため、バス会社は朝から我々添乗員や先生方に謝罪するところからスタートでした。
元々コロナ対策でバス1台あたりの乗車人数を定員の半分程度にしていたこともあり、来れないバスに乗車予定だった先生と生徒を他のバスに振り分けることは容易かったのですが、これはとんでもない大事件、このドライバーさんはきっとこの日の夜は眠れなかったでしょうね…
しかし、出勤できなかった会社員はこのドライバーだけではありません。雪に強いはずの北海道のJR線も終日運休や遅延状態のため、宿泊していたホテルでも出勤できないスタッフがおり、少ない人員で対応せざるを得ない状況になっていました。札幌市内では同様に出勤できない会社員が大量発生し、街中が大混乱になっていました。
添乗員泣かせの交通状況
渋滞が見込まれる状況で、当初の予定に可能な限り近い形で、お客様のその日の要望を聴きながらそれを実現できるように、バス会社やホテル、訪問箇所からの様々な情報を集め、打ち合わせをし、行程と時間配分を新たに作っていくのが添乗員の仕事です。鉄道会社でダイヤが乱れた時に、組み直していくのと似ているでしょうか。
この時、道路状況とその所要時間については地元のバス会社の意見を最重視します。この意見をもとに、修学旅行では先生方と打ち合わせをし、コースを変更するか否か、訪問箇所をカットしたり滞在時間を減らすなどの調整を行います。「渋滞覚悟でいいからここには絶対行く!」というケースもあれば、「ホテル到着が遅れるならここはカット」という先生の様々な考え方があり、バス会社はそれを実現してくれます。
(バス会社としては渋滞を避けたいと思っていても、お客さまが渋滞覚悟と言えば従うしかないのが辛いところでしょうね…)
しかし、このツアーに関しては道路状況、所要時間についてバス会社の意見は「全く読めない」を3日間貫き通されてしまいました。たしかに、数時間ごとに渋滞状況、高速道路の状況が頻繁に変化していたため、これは当然だろうと添乗員も、先生方も感じていたため、仕方ない回答ではあります。
ただそうなると、各箇所に、何時に着けるかわからないまま行程を組まなければならなくなりました。「ここからここへ、少なくとも○時間はかかるだろう…」という予測のみでスケジューリングするのは私にとっては初めてで、とても苦労したのはこの先も忘れないでしょう。
先生方のおかげで…
どっしりと余裕を持って構えている先生方に助けられた
この修学旅行では本当に先生方に救われたと思います。
羽田空港で予定便の欠航が決まり、航空会社と交渉している間、北海道に行けるのか行けないのか全くわからぬまま待たされているにも関わらずイライラすることなく、生徒への説明、気持ちを落ち着かせるような配慮をずっとしてくださいました。むしろ、このようなトラブルを半分楽しんでいるかのような余裕も見せており、すごいなと思わされたくらいです。
札幌観光中に渋滞にハマりまくっていても、仕方ないと開き直った様子を見せてくださり、添乗員や先生同士で綿密に連絡を取り合って、全部で12台あったバス全てに乗っている先生と生徒に同じ情報を素早く共有できたのは感動すら覚えるほどでした。
学校として譲れない部分は分かりやすく丁寧に提示してくださり、一方で行程を1ヶ所カットする提案を受け入れるなどの柔軟性も見せてくださいました。
初日、ウポポイにてクラス写真の撮影を予定していたものの、道路状況の関係で時間を取ることができなかったため、他の場所での撮影を提案、受け入れてくださったのですが、これが最終日、白い恋人パークにて吹雪の中での撮影になってしまいました。カメラに向かって顔を上げているのも辛い状況だったのですが、何とか全クラスがスムーズに撮影を終えることができました。きっと、吹雪に耐える厳しい表情が写真として残ったことでしょう。
この先どうなるかわからない状況で進めていくしかなかった修学旅行、体調不良や怪我をする生徒が出ることもなく、行程を一ヶ所カットしただけで、あとは滞在時間を短縮する程度で羽田空港に時間通りに帰着することは、先生方の協力なくして叶わなかったでしょう。
「マニュアルがここまで役に立たない修学旅行があるのか」
これは、羽田空港に帰ってきた時の学年主任の言葉です。
飛行機は飛ぶのかわからない、道路状況は全くわからない中での3日間となったため、先生方にとってはただでさえ朝から晩まで緊張を強いられる修学旅行であるのに、さらに大きく神経をすり減らす旅行になったでしょう。
当初の予定通りには全く進まず、その場その場で行程を決めていくことに慣れていない先生にとってはとても大変なことだったと思います。羽田空港で解散した時、その安心感、解放感からか、旅行担当の先生が泣き崩れてしまった時に、その苦労を感じさせられました。
私自身も、「無事帰って来れてよかった」という安心感はあったのですが、このようなトラブルを経験していなかったためにうまく動くことができなかった悔しさ、学びの方が多くありました。
この私のこれから旅行業界を目指す方、すでに活躍している若手社員には次のようなことを伝えたいと思います。
飛行機が欠航したら、渋滞したら、という「…たら」を想像し、それぞれにどう対処するか考えておく
・交通機関に関する知識をつけておく
飛行機の手荷物、チェックインの流れなど
・サブでも常に全体を見てスケジュールや段取りを考える
全体が見えていないと適切な動きが取れません
・添乗員の役割分担を明確にする
自分の役割を全員が果たせばスムーズに進む
今回は私が経験した添乗の実話を紹介しました。このように、添乗員の仕事には経験していないと対処できない状況というのが多々あります。
しかし、実際に経験を積んでいなくてもそれに準ずる経験値、ノウハウを蓄積させることができるのが、このような他の添乗員の添乗エピソードです。「こんな経験をして、こう対処したらうまくいった」というのは、知っているだけで自分の業務に活かすことができます。
しかし、他の添乗員からエピソードを聞き出していくのは大変ですよね。
実は、添乗エピソードは読書によって培っていくことができます。
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